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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)6810号 判決 1989年2月08日

原告

三和ガスサービス株式会社

右代表者代表取締役

吉川三代和

右訴訟代理人弁護士

藍谷邦雄

被告

東京瓦斯株式会社

右代表者代表取締役

渡邉宏

右訴訟代理人弁護士

野田純生

右同

井上省三

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇八万三七四〇円及びこれに対する昭和六〇年六月二七日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱の宣言。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、一般ガス事業者が行うガス供給等の設備工事に付帯する工事の請負をなすこと等を目的とする株式会社である。

被告は、ガス事業法に基づき通商産業大臣の許可を受け、一般に需要に応じ導管によりガスを供給する事業を行う一般ガス事業者である。

2(不当利得その一)

(一)(供給規程と承認単価)

(1) 一般ガス事業者は、ガス事業法一七条により、ガスの料金その他供給条件について供給規程を定め、通商産業大臣の認可を受けなければならず、かつ、同条二項三号により、右規程には、「導管、ガスメーターその他の設備に関する費用の負担の額及び方法が適正かつ明確に定められていること」が要請されている。

被告も、「一般ガス供給規程」(以下「本件規程」という。)を定め、現行のものは、昭和五五年九月二九日に通商産業大臣の認可を受け、これを同一一月一日から実施している。

(2) 本件規程13(2)本文には、「内管及びガスせん工事費として通商産業大臣の承認を受けた工事費単価により算定した見積金額を使用者からいただきます。」と定められている。そして、被告は、通商産業大臣に対し別に工事単価承認申請をなし、内管工事費単価の承認を得ている。これが「承認単価」といわれるものである。

(3) このように、内管工事費の承認単価が定められるのは、ガス供給設備がガスせんに至るまでの総ての工事を一般ガス事業者が行うことになっており、ガス使用者が内管といえども自己において設備工事をしてはならず、事業者においていわば独占的に行われるからである。そこで、法二〇条は、一般ガス事業者は、前記供給規程以外の供給条件によってガスを供給してはならないと規定している。したがって、ガス内管工事の費用負担も供給条件の一つであるから、内管工事の工事費単価は、承認単価によらねばならないものであり、これに反する契約は、強行法規違反として承認単価を超える部分において無効とされなければならない。

(4) ところで、被告は、「ガス供給規程実施細則」(昭和六〇年一月一〇日実施、以下「本件細則」という。)を定め、これを昭和五九年一二月二一日に通商産業大臣に届け出ているが、その12(1)に「内管工事費の単価は、材料費、労務費、運搬費、設計監督費及び諸掛費により算定した合計額とし、通常の木造建築家屋における工事に適用します。」と規定し、その12(2)②において、「イ鉄筋コンクリート、鉄骨コンクリート又はブロックその他これらに類似する建築物に係る工事、ロ内径五〇ミリメートルをこえる導管を使用する工事」の各工事費は「別個の設計見積額といたします。」と規定している。

そして、これを受けて被告の作成した「内管工事費の見積」(ガス工事の単価見積表、以下「本件単価表」という。)によれば、普通木造建築家屋のガス工事に適用される「承認延長見積工事」のほか、「実費延長見積工事」(特種建物のガス工事に適用される)及び「実費積算見積工事」(口径八〇ミリメートル以上のガス管を使用する大規模な工事に適用される)に分類し、このうち、工事費見積に当たり、承認単価が用いられるのは、ガス管についていえば、右「承認延長見積工事」の新増設入替、位置替、撤去の工事で、口径一五ミリメートルから五〇ミリメートルのガス管を用いるものに限っている。

(5) しかし、本件単価表の実費延長見積工事に用いられている見積金額は、工事費単価として通商産業大臣の承認を得たものではなく、被告において独自に定めたものである。もっとも、本件規程13(2)のただし書きに、「特別の工事または材料を要する工事については、設計見積金額をいただきます。」と定めているが、ガス管見積金額の単価自体は、木造建物の工事であれ、鉄筋、鉄骨等の特種建物の工事であれ、少しも変わらないのであるから、右特種建物のガス内管工事であるからといって、承認を得ていないそれよりも高額な見積金額を適用する合理的理由は全くなく、違法である。

(二)(承認単価によらない工事費の徴収)

被告は、原告が工事の申し入れをした以下のガス内管工事(後記A及びB工事は鉄筋コンクリートの、同C工事は軽量鉄骨の各建物の工事で白ガス管等を使用)において、本件単価表の実費延長見積工事の見積単価を適用した金額を原告から徴収した。

(1)「ドラッグ・ベンディング株式会社社宅」工事(以下「A工事」という。)

イ 所在  大田区東雪谷二丁目三二番二一号

工事申入れ 昭和六〇年四月一一日

工事番号  東京南支社NO五一四一三三(工種一)

被告見積  同月二二日

代金支払日  同年五月九日

ロ 承認単価による見積金総額(白ガス管及びPLSの見積金額において承認単価を、カラー鋼管については普通木造に適用される単価をそれぞれ基礎としたものであり、その余の費用項目は本件単価表記載の金額を用いた。以下同じである。)  一四万六四一五円

被告の見積総額 一九万二四八〇円

差額  四万六〇六五円

ハ 被告の行う内管工事については、本件規程に基づき被告のなす見積金額をまず被告に支払った後でなければ、工事をなしえないことになっている。そこで、原告は、前記代金支払日に被告の見積額を支払ったが、右差額は、承認単価を超えるものである。

(2)「山田マンション」工事(以下「B工事」という。)

イ 所在  杉並区宮前一丁目一四番一六号

工事申入れ 昭和六〇年二月二八日

①工事番号  東京西支社NO四〇三四二三(工種四)

被告見積  同年三月二八日

代金支払日  同年四月一日

②工事番号  同支社NO四〇〇六一七(工種一)

被告見積  同年四月四日

代金支払日  同年五月二七日

ロ 右二つの工事の承認単価による見積金総額  二〇四万一八八〇円

被告の見積金総額  ①につき二六万三〇〇〇円

②につき二二五万一〇〇〇円

差額 四七万二一二〇円

ハ 原告は、被告に対し、右各代金支払日にそれぞれ被告の見積金額を支払った。

(3)「中村ビル」工事(以下「C工事」という。)

イ 所在  三鷹市井口二番地三号

工事申入れ 昭和六〇年一月二三日

工事番号  東京西支社NO四一八三七六(工種一)

被告見積  同月二八日

代金支払日  同月二九日

代金清算日  同年四月一日

ロ 承認単価による見積金総額  六八万三八九〇円

被告による見積金総額  九〇万六八六〇円

被告の工事完了時清算額差引  八五万一二〇五円

差額  一六万七三一五円

ハ 原告は、被告に対し、前記代金支払日に被告の見積額を支払った。ところで、被告の内管工事の費用支払方法として、工事が完了した時点で、右見積と実施した工事が相違する場合には、代金を清算することになっている。本件工事では、右代金清算日に、被告の実施した工事費が見積金額より五万五六五五円少なかったとして、これが返還された。

(三) 以上の各差額を被告は原告から得て不法に利得しているから、原告にこれを返還すべきである。

3(不当利得その二)

(一) 原告は、左記工事を被告に申し入れ、その工事が次のとおり施行された。

工事名称  東アパート工事(以下「D工事」という。)

所在 相模原市栄町一〇番地四〇号

申込日  昭和六〇年二月一八日

工事番号  湘南支社NO四一二二八一(工種一)

被告見積  同月二一日

代金支払日  同月二二日

工事着工  同月二五日

工事完了  同年三月三日

再見積(清算)日  同月一一日

(二) 右工事の過程において、被告は当初見積金額として五三万六一〇円を呈示し、原告は、これを受けて代金支払日に右金員を支払った。ところが、工事着工時において配管方法に若干の変更があり(外廊下の下に配管する予定が一階天井内配管となる)、その変更された内容で工事がなされた。

前述のとおり、被告の代金支払方法は、工事着手前に被告の見積額を支払い、工事完了後に実施工事に見合って清算するというものである。本件工事においては、昭和六〇年三月一一日右清算のため、被告が再見積書を原告に呈示したが、その金額は四九万四二二〇円で、当初見積額との差額三万六三九〇円は同日原告に支払われた。

(三) 右見積書には、左のとおり、原告が支払うべき義務のないものが含まれている。

(1) 当初見積に記載がなく、設計変更の時にも原告に通告のなかった工事

PCM鉄コック二五mm 一個  八九〇〇円

二五型ピットA  一個 三万二九〇〇円

これは、原被告間の工事契約外の工事であり、原告に支払義務はない。

(2) 被告が何らの工事もしていないもの

穴あけ(一〇〇―一六〇)二五mm以下二箇所  三〇八〇円

穴あけ補修(右同) 右同二箇所二五六〇円

金属性吊振止金具(木造)二五mm以下三五箇所 四万六〇〇円

(3) 本来被告が負担すべきもの

設計手数料  四二〇〇円

これは、そもそも被告の内管工事費の本件規程等の中に存在しない項目であり、右規程が被告との工事契約の前提となるものであるから、被告は右金員の支払を請求しえない。

(四) 本件工事においては、以上の合計九万二二四〇円は昭和六〇年三月三日の実質清算である再見積の際に、原告に返還さるべき金員であるが、被告はこれを返還せず利得している。

4(不当利得その三)

(一) 原告は、左記工事を被告に申し込み、次のとおり工事が行われた。

工事名称  大作ビル工事(以下「E工事」という。)

所在  杉並区上高井戸一丁目八番二二号

申込日  昭和六〇年一月二三日

工事番号  東京西支社NO四〇三三五五(工種一)

被告見積  同月二八日

代金支払日  右同日

工事着工  同年二月一日

工事完了日  同年四月一日

(二) 被告の工事が終了した同年二月二五日、配管済みの土間に使用者がコンクリートを打設した。しかるにその後の同月二七日になって、被告は、本件ガス供給施設ではガス遮断弁が必要である旨原告に申し向け、その代金を追加支払するよう求めた。しかし、既にコンクリートを打設した後なので、内管中に右遮断弁を取り付けることは不可能であったため、被告は、供給管である道路面下にこれを敷設すること及びその代金三〇万六〇〇〇円の支払を要求した。原告は、これを支払わねば以後の工事がなされないので、やむをえずこれを被告に支払った(三月八日にこれを含めた見積書を被告に出し直した。)。

(三) 右費用は、左記理由により、被告において負担すべきもので、原告にはその支払義務がない。

(1) 被告の本件規程13(5)によれば、供給管は被告の所有とし、これに要する工事費用は被告が負担するとされている。右ガス遮断弁は供給管中にあるものであるから本件工事には右規程が適用されるべきであり、これを原告に請求するのは誤りである。

(2) また、本件のような内管工事では、従来遮断弁の取付けはしておらず、故に一月二八日の見積時点でも被告はこれを工事内容として指示しなかった。したがって、従来の取扱いでは右遮断弁の取付けは不必要な工事であり、その費用を原告に請求することはできない。

(3) 仮に、右遮断弁の取付けが必要であるとしても、見積時点である当初設計の段階で、これを指示しておれば、後にコンクリートを打設した土間部分等の内管部分(大作ビルの敷地内)にこれを取り付けることが可能であった。その場合、遮断弁は二五型ピットによればよく、その代金は三万二九〇〇円ですんだはずである。しかるに、被告の指示がコンクリートの打設後であったため、内管部分に取付け位置がなくなり、結局道路下に取り付けざるをえなかったが、この場合は車両重量に耐えるものとして二三型ピットが用いられ、一〇倍近い代金を要求されるところとなった。したがって、少なくともその差額は二七万三一〇〇円は被告が負担すべきであり、原告に請求することはできない。

5 そこで原告は、被告に対し、不当利得の返還義務として、以上の合計一〇八万三七四〇円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年六月二七日から支払済みに至るまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1は認める。

2  同2の(一)(1)及び(2)は認める。

(一)(3)は争う。

(一)(4)は認める。

(一)(5)のうち、本件規程13(2)のただし書きに原告主張の定めがあることは認めるが、その余は争う。

3  同2の(二)の冒頭部分は認める。

(二)(1)イは認める。

ロのうち、被告の見積総額は認めるが、その余は知らない。

ハのうち、被告の内管工事は本件規程に基づき被告のなす見積金額を支払った後でなければ原則として行わないこと及び原告がその主張の日に被告の見積金額を支払ったことは認めるが、その余は争う。

(二)(2)イは認める。

ロのうち、被告の見積金額は認めるが、その余は知らない。

ハは認める。

(二)(3)イは認める。

ロのうち、被告の見積金額は認めるが、その余は知らない。

ハは認める。

4  同2の(三)は争う。

AないしC工事のように鉄筋・鉄骨等の建物にかかるガス工事の工事費単価を承認単価によらずに、個別に定めることは、ガス事業法の趣旨に基づく適法なものである。

すなわち、被告が法一七条の定めに基づき通商産業大臣の認可を受けて実施している本件規程は、その4において、この規程の実施上必要な細目的事項は実施細則による旨定め、そして、被告は、本件細則を作成して、これを通商産業大臣に届け出ている。かくして、本件細則は、12(2)において、本件規程13(2)ただし書き所定の特別の工程又は材料を要する工事内容の詳細を規定している

そして、鉄筋・鉄骨造り建物におけるガス配管工事に際しては、個々の工事についても、また工事全体の管理監督についても、木造のそれに比しはるかに複雑、高度な内容を要求される要素が多い。その故、承認単価を適用することは不適切であるから、別途独立した鉄筋・鉄骨建物の工事にかかる見積単価を作り、これらの要素を吸収して対応しているのであり、その必要性、合理性もある。

したがって、被告がAないしC工事につき、承認単価によらず本件細則12(2)②の工事として個別に見積をなし、これに基づき相当と認める金額を原告から徴収したことは正当であり、承認単価によらない単価決定はすべて無効という原告の主張は理由がない。

5  同3の(一)及び(二)は認める。

なお、変更は専ら原告の都合による。

(三)の事実すべで否認し、法的主張は争う。

(四)は争う。

6  同4の(一)は認める。

(二)のうち、被告が本件ガス供給施設では内管にガス遮断弁が必要である旨原告に申し向けたこと、内管中に右遮断弁を取り付けることが不可能であったこと、被告がこれを供給管に取り付けたこと、原告がその費用三〇万六〇〇〇円を被告に支払ったこと及び三月八日に原告がこれを含めた見積書を被告に提出したことはいずれも認めるが、二月八日に使用者が配管済みの土間にコンクリートを打設したことは知らないし、その余は否認する。

(三)のうち、本件規程13(5)に原告主張の定めがあることは認めるが、その余の事実は否認し、法的主張は争う。

供給管を被告の所有としたのは、本来これは特定個人の用に供するものであるが、公道内に存在するための便宜的措置にすぎないし、しかも本件の遮断弁は、そもそも内管に取り付けるべきところ、それがたまたま不可能であったため、やむをえず供給管に敷設したにすぎないのであるから、この取付け費用は原告の負担に属する。

7  同5は争う。

原告には、そもそも本件各工事による損失がないのであるから、不当利得返還請求権は発生していない。

第三  証拠<省略>

理由

一まず、請求の原因1、同2の(一)の(1)、(2)及び(4)並びに(5)のうち、本件規程13(2)のただし書きに、「特別の工程または材料を要する工事については、設計見積金額をいただきます。」と定められていることは、いずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。

1  本件規程には、その13に「工事に伴う費用の負担」と題し、各種工事による費用負担の一般的規定が設けられ、そのうち内管(使用者の占有又は所有する土地と道路の境界線からガスせんに至るまでのガス導管。なお、本件規程では、工事申込者は使用者とみなされている。)工事に関しては、その(2)で、「当社は、内管およびガスせんの工事費として通商産業大臣の承認を受けた工事費単価により算定した見積金額をいただきます。ただし、特別の工程または材料を要する工事については、設計見積金額をいただきます。」と規定しているが、その使用者が負担する費用の具体的な額については、何らの定めも置かず、右のとおり、別途通商産業大臣の承認を受けた工事費単価で算定した見積金額又は設計見積金額と抽象的に規定しているにすぎない。

2  かくして、本件規程4の「この規程の実施上必要な細目的事項は、別に定める実施細則によるほか、そのつど使用者と当社との協議によって定めます。」という規定に基づいて制定され、昭和五九年一二月二一日に通商産業大臣及び東京通商産業局長に届け出、そして昭和六〇年一月一日から実施されている本件細則12に「内管工事費の算定」と題して次のような規定を置いている。

1  内管工事費の単価は、材料費、労務費、運搬費、設計監督費および諸掛費により算定した合計額とし、通常の木造建築家屋における工事(以下「標準設計工事」といいます。)に適用いたします。

2  特別の工程および材料を要する工事

①  標準設計工事に係る場合は、1により算定された工事費に次の費用を加算いたします。

イ 特別の工程

(ⅰ) 夜間工事費……(省略する。以下においても本件の争点と直接関係のない部分の詳細は省く。)

(ⅱ) 休日工事費……

(ⅲ) 付帯工事費……はつり・穴あけ・コンクリート割・補修・塗装・吊金具取付等配管に付帯する工事が発生した場合の工事費

(ⅳ) その他工事費……

特別材料費……使用者の申し込みまたは工事箇所の状況により、ガスせん・コック・バルブ・その他特殊な材料を要する場合には材料費の実費

②  次に掲げる工事は、標準設計工事以外の工事とし、その工事費は個別の設計見積額といたします。

イ 鉄筋コンクリート、鉄骨コンクリートまたはブロックその他これに類似する建築物に係る工事

ロ 内径五〇ミリメートルをこえる導管を使用する工事

3  更に、被告において昭和五七年一一月に作成した「内管工事費の見積」と題する本件単価表は、次の内管工事費の見積に適用するとしている。

1  延長見積工事

(1)  承認延長見積工事

五〇mm以下のみのガス管を使用する普通木造の工事

(2)  実費延長見積工事

五〇mm以下のみのガス管を使用する特殊建物の工事

2  実費積算見積工事

八〇mm以下のガス管を使用する工事

そして、右1の延長見積工事について、別紙のように、その工事費の見積の方法並びにそのうちの「ガス管見積金額」に用いられる単価等を細かく定めているが、その①表(白ガス管、亜鉛メッキの施された鋼製のガス管)及び③表(PLS、ポリエチレン製のガス管)の「承認延長」欄記載の単価及び④表の*印の付してあるガスせん単価が、本件規程13(2)に定めるところの工事費単価として被告が通商産業大臣の承認を受けた、いわゆる「承認単価」といわれるものであり、したがって、内管工事のガス管見積金額の見積に当たって、右承認単価が用いられるのは、五〇ミリメートル以下のみのガス管が使用される普通木造建物に係る工事の場合のみであり、また、「特殊建物」すなわち、軽量鉄骨、鉄筋の建物の内管工事の場合には、同種の同内径のガス管を使用して工事をしても、普通木造建物に係る工事の場合に比して、別紙の①及び③表の「実費延長」欄並びに②表「建物種類別」欄記載のとおり、その単価が順次高額に定められている(なお、②表のカラー鋼管は、露出部分に使用される管で、塩化ビニール製被覆のあるガス管)。

以上の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

二次に、請求の原因2(二)のうち、(1)ないし(3)の各ロの承認単価による見積金額と差額及び(1)のハのうち、右差額が承認単価を超える旨の原告の主張の各点を除く、その余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によれば、AないしC工事について、その各内管工事費を、そのうち「ガス管見積金額」につき、本件単価表の実費延長見積工事としての見積単価によらずに、白ガス管及びPLSの各単価には別紙①表及び③表の承認単価を、カラー鋼管の単価には同③表の「普通木造」欄記載の単価をそれぞれ用い、その余は本件単価表に則って見積ると、A工事は一四万六四一五円、B工事は二〇四万一八八〇円、C工事は六八万三八九〇円となり、したがって、右の見積方法によれば、右各工事につき、原告は、その主張する差額分だけ多く費用を負担したことになることが認められる。

ところで、ガス事業法一七条が、一般ガス事業者に対し、ガスの料金その他の供給条件について供給規程を定め、これにつき通商産業大臣の認可を受けねばならない旨義務付けられているのは、一般ガス事業が国民生活に必要なガスを導管によって供給する地域独占的な公益事業であるため、地域住民には供給の相手方を選択する自由がなく、供給を受ける一般ガス事業者が特定し指定されているに等しいから、かかる状況下で両者間の契約内容をその自由な意思決定に委ねると、一般ガス事業者がその独占的な地位を利用して契約内容を恣意に定めたりするおそれがあり、したがって、これを防止し、もって事業の適正かつ公平な遂行を保障することにあると解せられる。そして、同法施行規則一六条において、ガスの供給に関しその契約の内容となるところの、供給規程に定めるべき事項が列記され、その三項で「導管、ガスメーターその他の設備に関する費用の負担の額および方法」も定めるべきものとし、かつ法一七条二項三号によれば、右の「費用の負担の額及び方法」が「適正かつ明確」に定められていることが認可の条件となっているのである。内管工事の費用も法及び施行規則にいう「設備に関する費用」に当たることは多言を要しない。

前認定のとおり、被告の本件規程では、使用者(又は内管工事の申込者)の負担する費用は、まず通商産業大臣の承認を受けた工事費単価により算定した見積金額であり、ただしその内管工事が特別の工程又は材料を要する工事(以下「特別工事」という。)の場合には、設計見積金額であると規定している。この規程の体裁、そして特に法一七条の趣旨に鑑みるとき、使用者が負担する工事費は、「承認単価」により算定した見積金額が原則であると解すべきである。そうでなければ、右の「設計見積金額」とは、要するに被告の見積る金額と同意義であるから、一般ガス事業者の恣意による内容の契約を防止しようとした法の趣旨を守ることができないであろう。したがって、被告は、通商産業大臣から特別工事は設計見積金額による旨の、いわば包括的な認可を受けているものの、その設計見積金額を使用者に負担させ得る特別工事なるものは、法の趣旨を逸脱しない範囲の合理的な場合に限るべきであるし、もとよりその額は社会的、経済的に適正であるべきであり、負担の方法も必要かつ合理的に定められるべきであると解する。

ところで、本件細則では、特別工事として使用者が負担する費用項目を列挙し、同細則にいう「標準設計工事」であっても、それに特別工事が伴えば、その設計見積金額を加算した費用を使用者が負担するものとしている。これ自体は、特に異とするところはないが、更に鉄筋コンクリート等の建物に係る内管工事のすべてを一括して特別工事の範疇に加え、使用者は、個別の設計見積金額を負担すると定めてしまっている。かくして、本件単価表によれば、使用者がガス管見積金額に関し「承認単価」によって算定する見積で内管工事費を負担するのは、五〇ミリメートル以下のみのガス管を使用する普通木造の工事(同単価表にいう承認延長工事)に狭められていて、鉄筋コンクリート等の建物に係る内管工事費のガス管見積金額に関しては、承認単価のある同種同内径のガス管を用いる場合であっても、承認単価によらず、被告が独自に定めた「実費延長」なる単価を用いてガス管見積金額を計算し、これに他の項目の見積金額を加算して全体の工事費を見積り、これを使用者が負担することになっている。

確かに、鉄筋等の建物の内管工事には、一般的にいって、普通木造の建物のそれよりも、特別工事が伴うこと、すなわち特別の工程又は材料を用いる工事が多いであろうことは経験則上理解できなくはない。しかし、そうであるからといって、右の内管工事そのものを一括して特別工事と位置付け、その設計見積金額を使用者に負担させるという本件細則の規定は、本件規程13(2)ただし書きとの関係で、やや疑問なしとせず、少なくとも、それに用いるガス管見積金額の単価に関しては、費用負担の額及び方法を供給規程の必要的記載事項とし、かつその適正と明確性をうたっている法の趣旨に照らすと、まずは原則どおり承認単価によるべきであり、被告が通商産業大臣の承認を得ずに独自に定め得る「設計見積金額」なる単価(本件単価表の「実施延長」なる単価)を用いて見積もった金額を使用者に負担させ得るには、先に触れたとおり、それなりの合理的根拠が必要であると解せざるをえない。

そこで、被告は、鉄筋コンクリート等の建物における内管工事は、個々の工事にあっても、工事全体の管理監督についても、木造のそれと比較しはるかに複雑、高度の内容を要求される要素が多く、これにガス管見積金額に関し承認単価を適用することは不適切であるから、別途に見積単価を作り、右の要素を吸収して対応しており、その必要性、合理性もあると主張する。しかし、<証拠>によっても、未だその必要性、合理性について納得のいく根拠があるものとは到底いえない。乙第四号証に記載されている鉄筋等の建物の内管工事に伴う困難性なるものも、<証拠>によれば、かえって、そのほとんどの事項は本件細則及び単価表の特別工事に該当する費用としてそれぞれ使用者が負担する項目に含まれていることが認められるから、鉄筋等の建物の内管工事であるからといって、ガス管見積金額を算定するに当たり承認単価によらず、これよりも高額な被告が定めた通商産業大臣の承認を得ていない実費延長単価を適用する必要性も合理性も見いだし難いといわざるをえない。常識的にいっても、木造の建物であれ、鉄筋のそれであれ、用いられるガス管が同種同等のものであるならば、その経済的価値としての単価自体に前後変わりがないであろう。

また、カラー鋼管については、その見積金額の単価としてそもそも通商産業大臣の承認を全く得ていないところ、これは、本件細則12(2)①ロにいうところの「特別材料費」としてその実費を使用者から徴収できるというべきであり、その必要性、合理性もあるが、しかし、被告は、その単価に関しても別紙の②表のとおり同口径でありながら、普通木造と鉄筋等の間に差異を設け後者をより高額に定めているが、この点についても右の説示がそのままあてはまるものと解せられ、したがって、その適正な単価は、被告が普通木造に適用すべきものとして定めている単価であるというべきであろう。

なお付言するが、<証拠>によれば、通商産業大臣の被告に対する事業監査の際には本件単価表を呈示していることが認められるが、これによって本件単価表の承認単価以外の単価につき、通商産業大臣の承認を得たのと同等の法的効果が付与されるものとは解せられない。

そうだとすると、AないしC工事について、本件規程、細則及び単価表(これは、私法上いわゆる附合約款であり、契約工事となる。)に基づいて、原告と被告との間に締結されたガス内管工事契約は、その各工事に用いられたガス管の、白ガス管及びPLSについては承認単価を超える費用部分並びにカラー鋼管については普通木造に適用される単価を超える費用部分の各負担の合意に関する限り、結局無効である。なぜならば、内管工事費の負担の額及び方法は、通商産業大臣の認可事項であり、その認可が私法上の効力要件になると解せられるところ、鉄筋等の建物に係る工事であるという理由だけで、その必要性も合理的理由もないのに、白ガス管及びPLSの見積金額の算定に関し承認単価によらず、またカラー鋼管に関しては特別材料として設計見積金額による旨の包括的な認可の趣旨に照らして適正と思われる普通木造の単価によらないで、いずれも被告の独自に定めた実費延長単価等を適用することは、要するに認可事項につきその認可を受けていないことに帰着するというべきであるからである。

三次に、請求の原因3のうち、その(一)及び(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

そして、右争いのない事実に<証拠>を総合すると、

1  原告からD工事の内管工事の依頼を受けた被告は、昭和六〇年二月二五日にその配管工事を施工したが、その際、右配管の一部が土中を通過するため、当初の設計にはなかったものの、当時の被告の工事基準に則り、原告の従業員である吉川八代光に了解を得て、ガスを屋外から遮断するバルブ(PCM鉄コック二五ミリメートル一個、八九〇〇円)及びこれを保護する筒(二五型ピットA一個、三万二九〇〇円)を設置したこと、

2  また、右工事に付帯して、二箇所につき穴あけとその補修工事をし(その工事費計五六四〇円)、かつガス配管の吊振止金具を三五箇所に設置したこと(その工事費四万六〇〇円)、

3  被告が当初の設計を変更したことに伴う設計手数料として、四二〇〇円を原告に請求し、原告がこれを、以上1及び2の工事代金と共に被告に支払っていること、

以上の事実が認められ、右認定に反する<証拠>は、前掲の各証拠に照らして採用できず、<証拠>の存在によって右認定を左右するとはいえず、他に右認定に反する証拠もない。特に証人吉川の、既にプロパンガスの業者がその配管のために吊振止金具を設置していたのであるから、これを被告が使用したはずだという趣旨の証言部分は、同人が工事後にその点を自ら確認しているわけではなく、したがって、同人の憶測にすぎないし、また、前記穴あけ工事の少なくとも一箇所は穴あけではなく、はつりであるという原告代表者の供述部分も、同人の意見にすぎず、前掲乙第一〇号証に照らすと、やはり穴あけと見るべきでないかと思われる。

右事実によれば、前記1及び2の工事代金の支払を求めた被告の処置に何ら不当、違法な点はない。しかし、確かに、設計手数料に関しては判然としない。工事変更に伴う設計変更の手数料負担については、本件規程、細則及び単価表に明記するところがない。そして、特に、原告と被告との間で、D工事の内管工事契約において、設計変更手数料を原告が負担する旨の合意が存在したことを認める証拠もなく、しかも<証拠>によれば、本件のD工事における程度の設計変更で手数料を徴収されたことは今までに経験していないことが認められるところ、被告においても、いかなる程度の変更の時にその手数料を使用者負担としているのか、といった一般的基準を示す適切な資料を何ら提出していない。したがって、前記手数料の徴収は、法的に根拠のないものといわざるをえない。

四請求の原因4の(一)の事実、同(二)のうち、被告がE工事では内管にガス遮断弁が必要である旨原告に申し向けたこと、内管中に右遮断弁を取り付けることが不可能であったこと、被告がこれを供給管に取り付け、原告がその費用三〇万六〇〇〇円を被告に支払ったこと及び三月八日に原告がこれを含めた見積書を被告に提出したこと並びに同(三)のうち、本件規程13(5)に供給管は被告の所有であり、これに要する工事費は被告の負担とする旨の規定があることは、いずれも当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、

被告は、昭和六〇年一月二九日にE工事の内管工事に着手したが、これも当初の設計を変更し、土中配管とすることになったため、当時の被告の基準によれば内管に遮断弁を設置する必要があったところ、被告ではその旨を原告に伝えなかったばかりか、露出配管に使用する簡易な遮断装置を敷設して二月一九日に一応配管工事を終了したこと、

しかしその後、被告の他の支社との取扱の均衡上、やはり基準どおりの遮断弁を設置すべきであるということになって、被告の社員篠原芳弘(当時被告の西支社に勤務)が同年三月五日に電話で原告代表に対し無償による遮断弁取付けの了承を求めたところ、原告代表者は激怒したものの、結局は同月七日、無償のごり押しは困るといって、有償によるその取付けを了解し、集金に来るよう述べたが、当時既に使用者において土間や敷地内にコンクリートを打ってしまっていたために内管中に右の遮断弁を取り付けることが事実上不可能であったから、被告は供給管にこれを取り付けることとし、翌八日原告から二三型ピット遮断弁の代金三〇万六〇〇〇円の支払を受けて、同月一二日に供給管にこれを設置したこと、

そして、もし内管に遮断弁を取り付けるとすれば、二五型ピット(代金三万二九〇〇円)で間に合ったこと、

以上のような事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで原告は、本件規程13(5)により右遮断弁の費用は被告が負担すべきであるという。しかし、供給管が被告の所有であり、これに要する工事費を被告が負担する旨の規定があるからといって、直ちに原告の主張のとおりであるとは解しえないであろう。例えば、同規程13(5)のただし書きに「使用者の申込みにより供給管の位置替えを行った場合には、これに要する工事費は、使用者からいただきます。」とあるように、使用者の都合で供給管を変更する工事が必要であるときには、その費用を使用者の負担とすることも決して不合理ではないし、このただし書きの趣旨と本件細則の12(2)①ロの規程に鑑みると、使用者のためにこれに対するガス供給上の安全性確保の必要から遮断弁を供給管に取り付けるときは、これを特別材料費として使用者の負担とすることができるというべきである。

したがって、結局は右遮断弁取付けがE工事の内管工事契約の一部としてこれに含まれていたか否かの問題に帰着するところ、前認定の事実によれば、事後ではあるが原告の負担において二三型ピットの遮断弁を供給管に取り付けることを原告は了承しているのであるから、これを違法、無効ということはできないし、原告の主張するとおり、被告が早期に遮断弁取付けの必要性を原告に伝えていたならば、内管中にこれを設置する可能性があったし、そうすれば二五型ピットで間に合ったかも知れないが、被告の無償による取付けを断って、二三型ピットの代金を支払っておきながら、今更右工事が不必要であったとか、あるいは二五型ピットの遮断弁で事が足りたと主張するのは許されないと思われる。それ故、原告の右主張も採用しない。

五以上要するに、AないしC工事の前記差額分及びD工事の手数料の各支払は、確かに原告と被告間における法律上の原因を欠く原告の出捐であったといえる。

ところが他方、<証拠>を総合すると、

原告は、建物の施主、請負人等の最終的なガス使用者(以下「使用者等」という。)と被告との間に介在して、使用者等からガス工事の被告に対する申請手続の代行、工事の管理並びに被告が行う内管工事等に付帯するはつり、穴あけ、吊金具取付け等の工事を請け負うことを事業として営業している会社であり、その請負代金として、使用者等に対し、被告が当初の設計に基づき算出する見積金額に自己の利益分(右金額の約五パーセント)を上乗せして請求し(被告では、ガス管の見積単価自体は承認単価又は普通木造に適用される単価を用いているものの、工事全体の見積金額は被告の当初見積金額を上回っている。)、使用者等からその支払を受けており、また工事完了後

に原被告間で清算が行われても、その増減を問わず、大幅な変更がない限り、使用者等と原告間では代金の事後調整を行っていないことが認められる。

そうだとすると、原告は、本件のAないしD工事においても、前記の出捐にもかかわらず、個々の工事の全体の対価をみれば何ら損失を被っていないものと推測される。なお、原告代表者本人は、B及びC工事では使用者等の要求で一〇パーセント減額した旨述べているが、これは原告自身の意志による財産の減少を意味するし、そもそも右各工事で原告が使用者等にいくら請求し、そしていか程の代金の支払を受けたのかが、証拠上明らかではない。

ところで、不当利得の制度は、利得者と損失者との間の財産的価値の移動につき、公平の見地からその財産状態を調整することを目的としているのであるから、利得を受益している者からこれの返還を求めうるためには、その利得が返還を求める者の損失によるものでなければならないと解する。そして、その損失なるものは、本件のように一個の内管工事をめぐり同一工事の対価が使用者等から原告に、原告から被告にとその各契約に基づき流れる法律関係においては、単に原被告間の個々の見積単価の増減によって考えるのではなく、工事全体の対価の面でとらえるべきであると解する。したがって、原告から被告に法律上の原因を欠く一部金員の移動があったものの、他方で原告において同一の工事そのものを原因として右出捐を補填するに足る金員を得ている以上は、損失はないというべきである。

六そうだとすると、結局原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官大澤巌)

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